文芸アドベントカレンダー20201214

miyayukiさん(@miyayuki777)主催の文芸アドベントカレンダー2020、12月14日担当の正井です。

adventar.org

 近年は隙あらば吉田知子をおすすめする生活を送っているのでここでも紹介する。

 吉田知子は1970年の芥川賞を受賞した作家で、作風は幻想(時々ホラー寄り)に分類される。というか私が勝手に分類している。吉田知子の作品を読むと、いつのまにかとんでもない場所に連れて行かれている。いつそうなったのか分からない。最初からそうだったのかもしれない。しかし、その状態は不思議と安寧である。

 ホラーは日常から異界への越境を描くものであるが、吉田知子の作品は、その境界線がゆらゆらと曖昧で、日常もよく見ればなんだかズレている。どこかで道を間違ったようだが、最初から間違っていたのかもしれない。だったらいいかあ、とゆやゆよと境界の揺らめく世界を受け入れている。

 

 短編が中心の作家であるので一冊から気軽に読める。おすすめは景文館書店の『吉田知子選集1 脳天壊了』である。ホラーがお好きなら講談社文芸文庫版『お供え』も楽しめると思う。

keibunkan.jimdofree.com

www.hanmoto.com

 

 隙あらば、と言えばドストエフスキーもおすすめしているのだが、長さがネックとなってなかなか手にとってもらえない。そこで、まず身近な友人に読んでもらうためにドストエフスキー紹介パンフレットを自作し、『罪と罰』と共に手渡した。巻末のあいうえお順人名表が好評であった。今は『悪霊』を渡している。

www.dropbox.com

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 『掃除婦のための手引書』は誕生日プレゼントにもらった。一行目から好きを確信できる作品集であった。友人の目利きにうなった。

 学校での失敗、アル中のデトックス、末期ガンの妹、母の記憶、離婚、引っ越し、絶交。決して順調とは言えない人生の断片をこんなにもすっきりと歯切れのよい言葉で述べていた人がいたことに驚く。今年は色々とキューなことが多かったが(キューは不思議惑星キン・ザ・ザにおける罵倒語)何とか自分の生活を保とうとする時にこの短編集があったことがどれほどたのもしかったか。

www.hanmoto.com

www.pan-dora.co.jp

 

 最後に紹介するのは文芸と言いつつラジオである。「犬街ラジオ」と言う。毎週水曜21時から22時半まで、ツイキャスで配信されている。ラジオ局の配信するプログラムではなく、いわゆるアマチュアのウェブ配信である。

twitcasting.tv

 ラジオで言うパーソナリティは三人。

 島売りであり朗読パフォーマーであり大阪は庄内のギャラリー「犬と街灯」の店主・谷脇クリタさん。

 第22回ファンタジーノベル大賞受賞のSF作家・北野勇作さん。

 オンラインの短編コンテストブンゲイファイトクラブの今年の優勝者・蜂本みささん。

 この三人が一時間半、怪獣や昆虫や街で見かけたものについておしゃべりをするのだが、毎週一人一編ずつ朗読を披露する。

 

 お三方の朗読のうち、私のおすすめを以下に貼っておく。

 まず、谷脇クリタさんの「こどもの証」。明石生まれの子どもだけがアクセスできる「明石っ子レコード」についての物語だ。スピーカーを通して聞こえる登場人物の関西のイントネーションと、語り手の独白が、未来からの伝言のようなどこか寂しくて奇妙にノスタルジックな空間を作り出している。

犬街ラジオ#13 36:55〜

twitcasting.tv

他、谷脇クリタさんのnoteでも朗読が公開されている。

note.com

 北野勇作さんの「グリコ」は著作『ウニバーサル・スタジオ』からの一編である。大阪のようで大阪でない、いつかのどこかの大阪での巨人の活躍と暴走。北野さんの声は朗々として説得力があり、その声で語られるヘンテコリンな創生神話はあり得そうであり得なくておもしろい。

犬街ラジオ#7 8:40〜

twitcasting.tv

https://www.amazon.co.jp/ウニバーサル・スタジオ-ハヤカワ文庫JA-北野-勇作/dp/4150308985

 蜂本みささんの「あるまじろ」は第1回の犬と街灯ラジオで読まれた。こちらも関西弁で、友達と雑談しているような調子で始まるのだが、ふと不穏な気配を感じたと思ったら一瞬で景色の塗り替わる迫力を味わっていただきたい。

犬街ラジオ#1 35:40〜

twitcasting.tv

テキスト版も公開されている。でも、あの衝撃、声で味わってほしいと思うのである。

note.com

 

 朗読は面白い。対面で聞いたのは数えるほどの私が批評めいたことを言うのもおかしいが、お三方とも大変上手い。

 それに加えて、たぶんウェブラジオ形式独特のよさ、というのがあって、ふつうの雑談と真剣な朗読の中間にあるような、気の張らない声が心地よい。私はこれを、寝る前のストレッチの時間に少しずつ聞いて一週間を過ごしている。

 文芸アドベントカレンダー、明日の担当は出藍文庫さんです。